『BABEL』
正直、イニャリトゥ監督にしては、薄い・もったいないと感じた。
どう考えたって監督の前作『アモーレス・ペロス』の方がずっと良く出来ているし、映画『バベル』で綴っている物語はどこかしら手法も含めミヒャエル・ハネケ監督の『コールド・アンノウン』の焼き直しに見える。(監督としての手腕はハネケの方が上)
簡単なあらすじを言うなら、ブラピ一家におこった災難物語、なのである。(念を押して言いっちゃいますが、ブラピ以外、家族全員が命の存亡に関わる災難なのだ…)
なのに、この物語の背骨になる筈のブラピ一家の描き方があまりにも足りな過ぎる。
そもそもブラピが出演する意味がない。
彼の魅力も新しさも一切出てこないし、なぜかブサイクだし…。
だから、他の地域での物語の方が人物像が描けている分、
本来主役であろう筈のブラピ夫婦の役を完全に食っている。
監督的には、それが狙いかもしれないが一番下の「?」に
書き記しているとおり、ブラピ夫婦の描き方がこの映画の
緻密さを一気に崩してしまうのだ。
映画のなかで
言いたいことも伝えたいことも見える。
しかし、何となく薄い。
さして思いを巡らすことなく、どういう意図で組み立てた
映像なのか?はすぐ理解できるし、
何よりも監督の前作2本を見ていれば
予言の如く次の展開、いや次のシーンの画面まで
読めてしまう。う~ん、これはどういう事だ。
ベビーシッターの甥が暴走することも、
菊池凛子がどんなに魅力的でも最後まで
男たちの性的対象にならないことも、
モロッコで悪戯に猟銃を撃ってしまった弟は特に
一挙手一投足全てが完全に先読みできてしまう。
兄が打たれた後に警察に発砲するシーンは、
あまりにも予測していたとおりで、不謹慎だけど
笑いが出てしまった。
が、彼は煩悩丸出しの教育も受けていない幼児なのだ。
兄が撃たれたまででは、そんな急には変わらない。
防衛も含め、とっさに撃っているのだから
冷静に判断できるか?と。
いっそ、父と兄が警察に撃ち殺され、
寄る辺なく呆然とした彼のみが生き残る、
が正しい導き方だと思う。
ラストシーンも逆だと思う。
役所公司と菊池凛子がようやく心を通わせる、
そして次に、1つ前の刑事のシーンだ。
親子2人の事に思いをはせながら
やるせない思いを抱き一人飲んでいる酒場で、
たまたま見た数秒のTVニュースがブラピ夫婦の話。が、
言いたかった事がきちんと伝わったと思う。
しかし…、その言いたかったことは
映画の予告編で語られている
「モロッコで端を発した事件が世界の様々な人生に繋がってる」だ。
正直、それを描いたところで、「今さら」という思いが募る。
我々が既にグローバリズムの渦中にいるのは周知の事実。
衣料品のほとんどが中国で生産されているし、
家電量販店で売られている安い機器は韓国やインドネシア
などアジアの諸外国製だ。
吉野家の牛丼の肉はアメリカ産。
ほっかほっか亭ののり弁に入っているフライは
日本で白スズキと呼ばれているが現地ではナイルパーチ。
そう『ダーウィンの悪夢』http://www.darwin-movie.jp/
の主題になっている魚である。
そうした事実の上に生活が成り立っていることぐらい
知っているのだ。
それに…、本作のタイトル『バベル』は
天まで届く塔を建てようとした人間の”傲慢”に神が怒り罰と
して、互いに言葉を通じなくしたという塔伝説。
一緒に見たダンナが「バベルの塔伝説というモチーフに
いつ行き着くか?楽しみにしていたのに、全く届かなかった」
と鋭い事言ってた。
最もだ。そう、この映画の最大のネックはこのタイトルにアリ!
期待していた上に酒を飲みながらゆえ、
さらに辛口になりそうなので簡単に
評価したい事と「?」をば。
【評価】
日本社会の描き方が実に上手い。
(しかし、5年前の日本の姿である。東京には菊池凛子扮する
「誰かと繋がりたい」若者は減少の一途をたどっている。
ネットカフェ難民等、どんどん個になろうと閉塞中なのだ
事実は小説より奇なり。日本の将来を考えると恐ろしい…)
菊池凛子はヤッパり上手い。
(ティーンの漂流感が非常に良く出てた。
監督は菊池凛子が好きなのか?
非常に力が入ってますね。彼女のシーンは特に)
先進国に住んでいる人々の優位性がキチンと描かれている。
(モロッコ人の兄弟もメキシコ人のベビーシッターも
その時、本人にとって「たいしたことはない」と思った
判断が二度と取り返しのつかない事態に陥ってしまう。
先進国に暮らす人間とのリスクの差は著しい)
坂本龍一の音楽、いいねぇ~。私の琴線に触れるのだ。
(話の脈略と全く関係なく泣けるところなんて、ね)
【?】
・ブラピのベビーシッター手配し損ねの怪。
電話繋がるハズなのに。
・菊池凛子の母はなぜ自殺したの?しかも猟銃で。
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